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ミヤコワスレ都忘れmiyakowasure

  • bestlabstation
  • 4 日前
  • 読了時間: 3分

ベストラボの事務所に、ひとつの花が加わりました。



ご利用者様からのおすそ分け。さりげなく手渡されたその一輪が、いつもの空間の温度を少しだけ変えてくれるから不思議です。


名前は「都忘れ(ミヤコワスレ)」。


柔らかな紫の花びらを持つ、小さな花。

けれど、その名に含まれている時間は、ずいぶんと長く、そして少し重たい。


都忘れという名前の由来は、鎌倉時代にまでさかのぼります。


順徳上皇が承久の乱によって佐渡へ流され、その地でこの花を見て、都への恋しさを紛らわせた——そんな言い伝えが残されています。


「忘れる」という言葉がついているのに、そこにはむしろ忘れられない思いが滲んでいる。この花は、そういう少しひねくれた優しさを持っているように思えます。


順徳院の歌とされる一首も、その複雑な感情をよく表しています。


いかにして 契りおきけむ 白菊を都忘れと 名づくるも憂し


名前をつけるという行為は、本来そのものを愛でるためのはずなのに、この場合はむしろ、その名を呼ぶたびに都を思い出してしまう。

忘れるための名前が、記憶を強くしてしまうという逆説。


どこか、人の心の不器用さに似ています。


さらに時代を下って、歌人の大西民子もまた、この花に目を向けています。


人住まぬ家の庭にも咲きそめて都忘れは雑草の丈


荒れた庭にも、誰に見られるわけでもなく咲くその姿。

華やかではないけれど、確かにそこにある命。

静かで、少し寂しく、それでも確かに強い。


都忘れという花は、どうやら「目立たないけれど、消えないもの」を象徴しているようです。


さて、そんな花が、いまベストラボのステーションに飾られている。


忙しさの中で、つい見過ごしてしまいそうな存在ですが、ふと目に入るたびに、少しだけ時間の流れが緩む。


訪問看護という仕事も、どこか似ているのかもしれません。


派手ではない。

大きな変化が毎日あるわけでもない。


けれど、確実に人の生活の中に寄り添い、気づけばそこに「当たり前」として存在している。


奈良という土地もまた、そういう場所です。

歴史があり、物語がありながら、どこか静かで、過剰に主張しない。

それでいて、ふとした瞬間に深さを感じさせる。


都を離れた場所で咲く都忘れ。


奈良の空気の中で、それは少しだけ意味を変えて見える気がします。


ここで、ベストラボ、訪問看護、そして奈良という土地を重ねて、都忘れの短歌を三首、詠んでみましょう。


ひとつ目。

都忘れ 窓辺にひとつ 揺れていて 往く人の背に 奈良の風あり


ふたつ目。

訪問の 帰りの靴に 土の香り 都忘れ咲く 庭をあとにして


みっつ目。

名を呼べば 忘るるどころか 深くなる 都忘れと 人のこころは


どれも、派手さはありません。

けれど、少しだけ余韻が残るような、そんな歌になっていればいいなと思います。


日々の業務の中で、つい「効率」や「結果」に目が向きがちですが、こういう小さな出来事や、名前の由来に思いを巡らせる時間も、決して無駄ではないはずです。


むしろ、そういう時間があるからこそ、また次の日も、同じように現場に向かえるのかもしれません。


都忘れは、今日も静かに咲いています。

誰かに見られるためでもなく、評価されるためでもなく。

ただ、そこにある。


その在り方は、案外、私たちの仕事にもよく似ている気がします。

そんなことを思いながら、今日もまた、いつもの日常が流れていきます。



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